2017年4月29日土曜日

愛犬コロの記憶

コロが死んでから何十年も経った。

なぜ今、この文章を書こうと思ったのか自分でもよくわからない。

数日前、コロが死んだ日の夜のことを突然強烈に思い出した。

夕日が落ちた暗闇の中、コロが住んでいた犬小屋の前で母が立てたロウソクの光だけが何本か光っていた光景を。

 

コロの晩年は思い出したくなかったので、あえて思い出さないようにしていた。思い出しても、すぐに忘れさろうとしていた。記憶を完全に封印していた。元気だった頃のコロとはあまりにも違っていたから。でも今になって急に思い出して胸が張り裂けそうになる。

今、コロのものは何もない。写真も、骨も、何もない。顔もよく覚えていない。死んだ日付すらも覚えていない。何一つ残っていない。あるのは俺の中にある記憶だけである。俺が死んだらそれすらも無くなってしまう。何もかもがこの世から無くなってしまう。何もかもが。そんなのはあんまりだ。コロとは沢山の、沢山の思い出がある。

コロのことはよく思い出す。毎日思い出しているかもしれない。自分が年を取れば取るほど、体が少しずつ衰えるのを感じてきたほど、思い出すことが多くなってきたような気がする。

当時の俺はあまりにも若過ぎてコロを飼う力など全くなかった。コロが何を考えていたのか、コロの体がどんな状態だったのか、ほんの少しもわかりさえもしなかった。そしてコロを死なせてしまった。全部俺のせいだ。最低の飼い主だった。

コロはほんの狭い世界でしか生きなかった。そしてあまりにも短い生涯だった。本当に可哀想なことをしてしまった。自分が年を取っていくたびにそういう想いが強くなる。

今でも俺の心の中でコロは生きている。でも、できることなら、もう一度コロに逢って愛情をたっぷり注ぎたい。一緒に散歩をして一緒に野原を駆け回りたい。

逢いたいよ、コロ。

 

これは、ほんの短い間だったけど一緒に暮らして一緒に生き精一杯生きた小さな小さな命“愛犬コロ”の記憶の全てを書いたものである。

 

 

 

コロといったら、まず何を思い出すだろう。

今思い出すのは、玄関で俺を上目使いで見ているコロ。少し年をとってきたせいか唇が少し垂れてきた姿。俺はあまりにも若すぎて、なぜコロの唇が垂れてきていたのかほんの少しもわかりさえもしなかった。ただ少し垂れているなと思っただけだった。

コロはいつでも可愛かった。いつでもいつでも。

 

コロが最初に我が家に来たのは中学の時だった。友達の犬が子供を産んだからもらってくれないかと言われて、親に相談したらいいよと言ったので二匹の犬が来た。正確には最初に来たのは一匹だけで黒ブチの犬だった。その後、たしかもう一匹もらってくれないかと頼まれてコロがきた。コロは黒ブチと一緒に庭に放してあり、二匹とも走り回っていたが、コロの方が元気良く走り回っていた。コロに初めて逢った時の記憶が、この元気に走り回っている姿だ。二匹の犬(この時はまだコロと名付けてなかった)は明らかに特徴が違っていた。黒ブチの方は白い毛に黒い模様がありおとなしく、コロは動くのも速く元気一杯な感じだった。でも家では二匹も飼えないので一匹だけを選ぶことになって、俺は黒ブチの方を選んだ。見た目では黒ブチの方が可愛かったからだ。その時、コロは様子を理解したのか頭を大きく下げて落ち込んでいるような気がした。黒ブチの名前はコロと名付けた。正確には、名前はどうすればいいかと母に聞いたら、自分で決めてと言われた。しばらくコロを見ながら考えたけど全く思い浮かばなかったので母に相談したら、母が「コロコロしているね」といったので、それをそのままもらってコロと名付けた。元気な方のコロは親戚にもらわれていった。でも黒ブチのコロは、しばらくして死んでしまった。たしか中学2年の夏。遺体は庭に埋めて、今でも埋まっている。母が俺のことをあまりにも可哀想に思ったのか、親戚にもらわれていった元気な方のコロを引き取ってきた。名前はそのままコロと名付けた。

 

コロは本当にやんちゃで元気だった。元気だけど臆病なところもあった。毛は薄いクリーム色でほんの少し茶色がかっていた。鼻は少しハゲたような薄い茶色で乾いていた。目は真っ黒で、白目は大きく目を動かした時に少しだけ見えるくらいだった。大きさは柴犬くらいで雑種のオス。一匹目の黒ブチのコロよりも見た目はよくなかったので、最初は飼うことにあまり乗り気じゃなかったような気がする。

 

コロが我が家に来て3回目くらいの散歩の頃から、俺がコロに近づくと、コロは体一杯に喜びを表現して鎖が伸びきるまで左右に何度も往復して駆けずり回り始めた。この元気さと可愛さで、コロのことをいっぺんに好きになったんだと思う。そして一番初めに左右に駆けずり回った時にだけ仰向けになって腹を見せる信頼のポーズをした。腹を見せたのはこれ一回きりだったんだけど。もっと信頼されていれば何回も見せてくれたんだろうな。

 

散歩は、毎日連れて行った時もあったけど、ほとんどは数日に1回しか連れて行かなかった気がする。夕方はいつも吠えていた。散歩に連れてってくれと。夕方に散歩に連れて行き始めてしばらくしてから吠え始めたと思う。

 

散歩に行くために近づいていくと、コロは全身で喜びを表して鎖が伸びきるまで左右に駆けずり回った。そして傍までいくと、頭を俺のふくらはぎのあたりにダイビングヘッドのように何度もぶつけてきた。犬小屋の近くに打ち込んであった杭に繋いであった鎖を外した途端にハーハー言いながら俺を凄い力で引っ張って走っていこうとした。

 

散歩に行くために近づいていくと、コロは全身で喜びを表して鎖が伸びきるまで左右に駆けずり回ったが、お隣の犬もコロの影響を受けたのか同じような動作をするようになった気がする。

 

夕方になると散歩に連れて行ってくれと毎日吠えていたが、俺が近付いていっても数メートルくらいに近付くまでは吠えるのを止めなかった。あまり遠くが見えなかったのかも。

 

散歩コースは短かった。いつも家の前の歩道を、歩道の切れ目の往復100mくらいだった。コロはいつも歩道に出て一本目の植木の所でウンチをしていた。一番初めに散歩に連れて行った時にはアスファルトの所でしようとしたため、体ごとズラして植木の所へ持って行った。次の時には植木の所に行き、ウンチをしながら俺の方を見て「ここでいいの?」という感じの仕草を見せた。しばらくするとそんな仕草も見せることもなくなり当たり前のように植木でウンチをするようになった。一本目の植木で1回して、二本目の植木でもして、三本目の植木でするときは気張るけどウンチが出ないのがいつもだったと思う。

ただ、ウンチは次の日には無くなっていた。当時は「次の日までには分解されて無くなるのかぁ」くらいにしか思ってなかったけど、今考えればおかしいので、誰かが処分してくれていたのかもしれない。親だったのかも。

 

ある時、ウンチをしている時に引っ張ろうとするとキャンキャン鳴いた。

 

ウンチをした後に、アスファルトの上であったが、後ろ足で土を蹴ってウンチを隠すような仕草を数回見せた。

 

ウンチをした後に、お尻の近くの毛にウンチが付いていたことがあった。

 

散歩は俺だけではなく、時々だが母もさせていた。母がコロの散歩をさせていた時、近所の人と会話をしていて、近所の人がコロを見て「元気ねぇ」と言ったら母が「やんちゃ」と言った。

 

コロの所へ行くのは、ほとんど散歩に行く夕方だけだったが、それ以外の時間に行くこともたまにあった。ある時、散歩以外の時間に遊んだら、次の日のそのくらいの時間になったら少しだけ吠えた。

 

コロが我が家に来てから間もない頃だったと思うが、コロを家の中で放し飼いにしたことが1日だけあった。その時、家の中にいた時間が長かったせいか、コロは家の中でウンチをしたらしい。

 

我が家に来てからしばらくすると、コロはよく吠えるようになった。なぜ吠えていたのか理由はよくわからなかったけど、あまりにうるさかったので吠えている時に口を無理矢理に手で閉じた。するとそのうちコロは口を閉じながら吠えるようになった。母は「口を閉じて吠えている」とビックリしていた。でもしばらくするとまた普通に口を開けて吠えるように戻った。

 

散歩の途中に不意に鎖が手から外れてしまったことがあった。コロはそのまま駆けていったけど、「あれ?」と思ったのか、後ろを振り向いた。そして俺に近づいてきて、捕まえようとすると逃げ出した。また近づいてきて、今度は「遊ぼう」のポーズをとった。捕まえようとしたら、また逃げた。もしかして、このまま捕まえられないのかと思って、また捕まえようと近づいたら、コロはその場で止まっていたので捕まえられた。コロに遊ばれたような感じだった。そんなことが2回ほどあった。そして俺はあろうことか、2回目の時だったか、捕まえた後にしばらくして鎖をムチのようにしてコロを叩いた。コロは「キャン」と鳴いた。

 

短い散歩コースの隣は田んぼだった。田んぼとはかなり段差があり、一部だけが坂になって降りることができた。そこで何度かジャンプさせたことがある。俺が先に降りてコロを引っ張った。コロは最初抵抗したが、少し無理に引っ張ると、意を決したように何度か体の一部を動かしながらジャンプした。一度だけ少し高めのジャンプをさせた時には少しだけ腹を打って着地した。着地後、チラッと俺の方を見た。

 

夕方にはいつも吠えていたコロが、一回だけすごい唸り声を上げ続けたことがあった。「ウーウー」と。どうしたのかと思い近づいて行っても、いつものように鎖が伸びきるまで左右に駆けずり回ることはなかった。顔に皺をつくって唸るコロの目の前に手を出したら、ガブッと噛まれた。びっくりして家に帰っていこうとすると、コロは静かになった。そして俺の姿が見えなくなった途端に、キャンキャンと鳴きだした。すぐに戻って行くと、いつものように鎖が伸びきるまで左右に駆けずり回った。そして俺の足に抱き付いてきた。足に抱き付くことはあまりなかったんだけど、その時は抱き付いてきた。悪かったと思ったんだろうな。

 

コロは一度だけ車にはねられたことがあった。辺りが暗くなった散歩の途中に急に駆け出した。突然だったので手から鎖が外れた。するとコロは急に曲がって車道に飛び出して横断しようとした。そして反対車線に飛び出した瞬間に車が急ブレーキをかけて「ドンッ」と音がした。直後にコロはキャンキャンと泣きながら七転八倒していた。俺が駆け寄った時には、いきなり俺の手に噛みついた。俺は家に戻り母に「コロが車にはねられた」と言った。母は「そういえば、今なにか聞こえた」と言った。俺はコロのところへ戻ったら、コロは黙って座っていた。俺は手をさし出すと、コロは俺の指を舐めた。俺はコロを抱きかかえて家に運んだ。その日は心配だったので玄関にコロを泊めた。しばらくしてコロはすぐに寝てしまった。結局コロは大したことなくすぐに元気になった。

なぜあの時にコロは急に駆け出したのか。今思えば、その時逃げ出そうとしたのでは思っている。毎日、鎖に繋がれた生活から逃げ出そうとしたのかもしれない。そんな風に思えてならない。この後、もう一度だけ同じように駆け出したことがあった。俺は以前の教訓から駆け出した瞬間に鎖を強く持ったので鎖を離さずに済んだ。巣立ちの時だったのかも。あの時うまく逃げていればどこかで幸せに生きていったのかもしれない。

 

逃げ出して以来、少しの間だけだったと思うけど、いつものように玄関で足を持ち上げてナデナデしようとすると少し後ずさりして嫌がるような仕草を見せた。

 

散歩の時、行ったり戻ったり少し強引にしてみたら、俺を見つめて「どっちに行くの?」とお伺いをたてた。

 

散歩に連れ出すと玄関の方に勝手に向かったので場所は覚えていたようである。

 

散歩の時に俺の足がコロの胴体に触れたらシッポを振った。

 

散歩のコースはほぼ決まっていたけど、ある時少しだけコースを延長したことがあった。その時に他の人が飼っている2匹の犬と遭遇した。2匹の犬は興味津々にコロの臭いを嗅いだ。コロは直ぐにシッポを下げてキャンキャンと鳴き逃げ出した。俺もコロに引っ張られてかなり速く走った。

 

散歩から帰ってきた後はいつも玄関に入ったけど、コロは玄関に入るときには扉の開くところに近づいて、扉が開いた瞬間から体を扉に擦らせながら一目散に中に入って行った。ある時俺はコロが入る様子が面白くて、コロが入った瞬間に扉から手を離すという悪戯をした。その時コロの腹の部分が扉に挟まれてコロはキャンキャン鳴いた。その鳴き声が家の中に響いたので台所にいた母が「あれぇぇぇ」と言ったのが聞こえた。

 

散歩が終わった後に玄関に入ったら、いつも俺はコロの前足2本を左手で持って右手で頭をナデナデしてあげていた。いつしかコロは俺がナデナデする動作を覚えてしまって、俺が右手を動かした瞬間に、顎を突き出して、耳を後ろに動かして、舌をペロペロと出すようになった。またそのときに目の上側は白目が大部分になったこともあった。

一度、頭を撫でているときに手を頭の上で止めたことがあったが、コロはすぐに俺の方を見て頭をサッと俺の手から離した。

また、コロが犬小屋にいて俺が窓からコロを見たときに、コロは撫でられているような動作をしていた。たぶん俺に撫でられていることを思い出していたんだと思う。

 

いつも散歩をした後には玄関に入り、俺は敷居に座ってコロの前足を手で持ち上げて顔と顔を見合わせた。いつもコロは俺の顔を頻繁に見ていて、距離がある時は、黒目をこっちへ向けてジーっと俺を見ていたコロだったけど、この時だけは顔を左右に振っていた。後になってわかったんだけど、これは恥ずかしいから顔を左右に振っていたらしい。いつもこんな感じで、玄関でコロは自由に行動することはほとんど無かった。

たまたまコロが玄関で自由に行動した時に、コロが俺に対して横になって、ジーっと真っ直ぐ前を見た。その直後に、今まで見たことのないようないたずらっぽい横目で俺を見てシッポを振った。そして前に歩いたかと思ったら、目の前に立ててあった数本のスプレー缶を鼻先で倒した。いたずらと判ったけど、突然のことで俺もどうしていいかわからず、こんなことで怒るのもなんだと思い、その場を立ち去って家の中に入ってしまった。相手にしないのが一番きくのではないかと直感したのかもしれない。その後、玄関から「ワン」と鳴き声が聞こえた。しばらくしてコロは家の中にテクテクと入ってきた。家の中には入れないようにしていたので、すぐにコロを抱きかかえて玄関に連れ戻した。

その後、また同じようにスプレー缶を倒した。その時、俺はいつも頭を撫でる時のようにコロの前足を持ち、コロに向かって「ダメ、ダメ」と言った。前足を持つと、いつもは首を左右に振り視線を合わせないコロだったが、この時だけは俺をジーっと見つめて聞いていた。

後日、また同じような状況になって、コロはスプレー缶をジーっと見た。その後、顔をプイッと俺の方にそらしてスプレー缶を倒さなかった。俺はヨシヨシと撫でてあげた。その後、スプレー缶を倒すことは無かった。

 

飼い始めた頃、頭を撫でてやると俺の顔を舐めようとした。でも俺が嫌がると2度としなくなった。

 

俺に前足をかけた時に爪を立てていた。俺が痛い仕草をすると2度としなくなった。

 

散歩が終わって玄関にいる時に、意味も無くコロの歯茎を見たりしていた。その時、コロは俺の手の平をチラッと見ていた。

 

コロの前足を手で持ち上げてコロの顔と見る時に俺をジーッと見ることがあったが、その時に俺の両眼を片目ずつ見たことがあった。俺が喋るとジーっと見ていたのかもしれない。

 

コロの目の前に手を近づける仕草を繰り返すと、1回目と2回目はじっと見ていたが、3回目には避けた

 

太陽を見て、ちょっとだけ眩しいそうに眼をしかめた。

 

玄関にいる時、俺の足の匂いを嗅いで舐めた

 

俺を甘噛みしたことがあった

 

コロの舌を少し引っ張ろうとしたら、抵抗して舌を引っ込めた

 

玄関にいる時に、緊張しているのかどうかわからないが唾を飲み込むようなことをすることがあった。

 

鼻はいつも乾いていて、玄関で、左手で前足を持った状態で、右手で鼻に触れると、自分の鼻をペロペロと舐めた。

 

事情があって、夜、玄関で寝ることがあったが、寝た後で「コロ」と呼びかけたが起きなかった。

 

毎日散歩に連れて行ったわけではなかったけど、毎日のように散歩に連れて行った時には、慣れてリラックスしたせいか耳が垂れた。

 

玄関にいる時に、座っている俺の足の間をくぐった。少し悪戯してコロがくぐった時に胴体を足で少し締めてやるとキャンと鳴いた。

 

玄関にいる時に、前足を上げたらどうなるかと思い上げてみたら、3本の足だけでバランスをとって立っていた。

 

玄関にいる時に、俺に後ろを見せたままお座りさせたら、しばらくじっとしていたが、そのうち後ろを振り向いて俺を見て、そして立ち上がった。その時の後姿は、丸くて可愛かった。

 

玄関にいる時に、毛づくろいをしようとブラッシングしたが毛が絡まってうまくブラッシングできなかった。無理矢理しようとしたら痛かったのかキャンと鳴いた。

 

玄関にいる時に、毛づくろいをしたらジッとしていた。

 

玄関にいる時に、お腹(毛の生えてない部分)を触ったら、お腹を引っ込めた。

 

玄関にいる時に、牛乳を飲ませたことがあったが、自分では加減がわからないらしく、ゴクゴクと飲み続けて、そのうち飲みすぎて戻した。

 

玄関にいる時に、コロの首を首輪のようにして両手で軽く掴んだことがあった。コロはしばらくじっとしていたが、手を振り払おうとして急に後ずさりした。再度同じことをやり、後ずさりした時に振り払われないようにしたらキャンキャンと鳴いた。首輪をされていることへの嫌悪感があり、またここでも首輪をされるかもしれないという怖さがあったのかもしれない。

 

玄関にいる時に、足の肉玉を触っても、触っているのをチラッと見るだけで無反応だった。

 

玄関から出ようとするときに、俺が先に行ってコロを股の間にくぐらせて玄関を出たら、コロは直ぐに俺の横から追い抜いた。でも、それだけやったら俺は直ぐに玄関に戻った。

 

玄関にいる時に、俺はTシャツを着て座っていると、コロが突然駆け出してTシャツの下の方から中に入ってきて首のところから顔を出そうとした。

 

玄関にいる時に、コロを初めて上に持ち上げたことがあった。その時、コロはびっくりしたのか持ち上げた瞬間から首を伸ばして地面を見つめ続けた。でも持ち上がることは、そのうち慣れてきて、俺が持ち上げるとしばらくして息を吐いてリラックスするようになった。コロの持ち方は前足2本の根元を関節を曲げるようにして持ちあげた。関節を伸ばして持ち上げると痛いのかキャンキャンと鳴いた。後ろ足を抱えて抱っこの様にすればコロも楽だったのかもしれないけど、お尻の衛生面を考えてしなかった。

 

持ち上げた後に、ゆっくりと降ろしたことがあった。ゆっくりと降ろして前足が着いた後も胴体を抱えていると自分から離れていって俺の方を見た。

 

玄関にいる時に、俺が頭を下げていると、俺が落ち込んでいると思ったのか少しだけクウーンと鳴いて俺の顔をペロペロと舐めた。

 

玄関にいる時に、コロを、お腹を見せるように引っくり返したら直ぐに起き上がった。

 

玄関にいる時に、すごく軽く撫でてやったら、痒かったのか、くすぐったかったのかわからないけど、体を振った。

 

俺はいつもコロに夕飯だけをやっていた。(朝飯は母がやっていたのだと思う)。夕飯をやるのはいつも散歩が終わった後で、玄関に入りコロと戯れていると母が持ってきてくれ、その夕飯を犬小屋まで持って行き犬小屋でやっていた。その時、コロは犬小屋まで持っていく間、ずっと俺の足に足をかけたりしながら飛び跳ねていた。

 

夕飯は、いつもご飯に味噌汁をかけたものだった。たまに目玉焼きを入れていた。目玉焼きの時は、白身の部分を口一杯に頬張って食べていた。

 

夕飯は、ツバの付いた茶色の器に入れてやっていた。食べる前にお座りをさせて、「待て」「待て」「ヨシ」でやっていた。コロは、これを一発で覚えた。

 

夕飯を食べ終わった後は、いつも茶色の器をペロペロと舐めていた。

 

飯を食べると、お腹がどんどんと横に膨れていった。

 

一度だけ、少し熱い夕飯をやったことがあった。ちょっと熱いかなと思ったけど、そのままやってしまった。コロは、熱かったせいか食べると直ぐに舌をペロペロさせて器をひっくり返した。そしてこぼれた夕飯に向かって吠えていた。でも、その後、タイルの上にこぼれた夕飯は全部食べたようだった。タイルの上もペロペロと舐めていた。

次の日、玄関にいる時に、時々俺を見ながら舌をペチャペチャ言わせて前後に動かし舌に違和感があるというような仕草をみせた。それは2~3日続いたと思う。

 

硬い物を食べる時は、時々俺を見ながら奥歯で噛んで食べていた。

 

食べ物への執着心は凄いものがあった。俺が背中に隠していた白い袋を目の前に出すと、今まで呼吸をしていた舌を少し引っ込めて真顔になり「何だ、これ?」って表情をして袋をじっと見つめて袋に食らいついた。俺が手に持っていたものは何でも食べ物だと思ったのだろう。何を持っていても食らいついて離さなかった。あまりに食らいついて離さないので、どうしようかと思い、コロの歯茎を両手で持って思いっきり開こうとした。凄い力で噛んでいたけど、ようやく開いて袋を離した瞬間に、また袋に飛びついて咥えた。でもその時はシッポをすごく振っていた。

お隣の家の駐車場で高く上げた袋に向かってジャンプした。2回失敗した後の3回目には体の一部をピクピクさせて渾身の力を込めてジャンプして袋を咥えようとした。その時俺はコロに顔を近づけたら、コロは俺をチラッと見て少しシッポを振ったけど、ジャンプする体勢は変えなかった。ジャンプした瞬間に俺はわざと咥えられないように少し上に上げた。思いっきりジャンプしても咥えられないのを悟ると、袋に向かってシッポを振りながら何回も吠えていた。

ジャンプして袋を咥えた時には、そのまま袋にぶら下がって、クルクルと体が回転した。

 

いつもコロを散歩させていたのは夕方で、コロは夕飯を食べ終わると直ぐに犬小屋に入り寝ていた。なので夕方には寝ていた。そのためか、朝は凄く早起きだった。夜が明けて明るくなったら起きていたようだった。鳴きはしなかったけど、鎖の音が聞こえていた。

 

寝るのは早かったけど、そのまま朝までずっと寝ているわけではなく、時々夜中に遠吠えをしていた。

 

家の隣が空地だったので、ビニールボールを投げて取りに行かせたことがあった。一番初めに取りに行った時のダッシュは凄かった。まるで車がジャダーを起こしたように、お尻を沈めて土煙を上げて猛然とダッシュしていった。そして、ボールに追いつきそうになった時には土煙を上げて物凄いブレーキをかけてボールを咥え、そして食べるような動作をした。でも食べ物ではないとわかると、そのまま咥えて持ってきたような気がする。そしてブレーキをかけた時にやったのか、太もも辺りの毛に血のようなもの付いており触ったら「キャン」と鳴いたので、少し怪我をしたようだった。

後日、2回ほど同じことをしたけど、一番初めのような猛ダッシュはしなくて、普通に走ってボールを取りにいった。

 

コロは一度、生死の境をさまよったことがあった。最初に覚えているのは、親戚の玄関先で丸くうずくまっているコロ。ピクリとも動かなかった気がする。母は「ずーっと、こんな調子で」と言っていた。そのまま近くの病院に入院になった。入院後、しばらくしてから病院から呼び出された。コロはキョトンとした感じで座っていた。先生はもう大丈夫だろうと判断して家族を呼んだのだろう。でも「一時は危なかった」と言っていた。原因はギョウ虫だった。俺が病院に到着する前にもギョウ虫のウンチをしていたようだった。その日はそのままコロを置いて帰ったと思う。

しばらくしてコロは帰ってきた。元気一杯だった。しばらくはギョウ虫の薬を飲ませて、何回かギョウ虫のウンチをしていた。でも2~3回でしなくなった。その後、日をおいて薬を飲ませたが普通のウンチをして完治した。

 

庭に水をまくホースでコロの胴体に何度か水をかけたことがある。そのせいでコロは水が大嫌いになった。よほど冷たかったのだろう。

 

周りに家族がいる時に、一度ホースのすぐ近くに無理やり連れてきて水をかけようとした。かけようとしたら、コロは水の出先を巧みに読んで水をかわした。ホースを動かした瞬間にコロは移動して水を見事にかわした。俺はそれを逆手にとってホースを動かすフリをして動かさなかったら、コロに水がかかった。コロはキャンキャン鳴いた。そのまま水をかけ続けたら、少し鳴き声が小さくなったが、またすぐに大きく鳴いた。

 

庭に水をまくホースでコロの胴体に何度か水をかけたことがあるせいか、俺がホースの方へ動いた瞬間に犬小屋に入って吠えるようになった。

 

誰もいない時に、コロからは分からないように窓からコロを見ていたら、庭に水をまくホースのある方向を見るときは渋い表情をしていた。

 

犬小屋の前で家族全員が揃ったことがあった。コロは一人一人の臭いを嗅いでいった。母の臭いを嗅ぐとコロは嬉しそうに飛び跳ねていた。コロは、母が一番好きだったのかもしれない。シッポを振りながら臭いを嗅いでいるコロだったが、俺の臭いを嗅ぐとシッポの動きが止まった。俺は少しだけ動揺した。その直後、あろうことが俺は庭に水をまくホースの方に向かう仕草を見せた。コロは一目散に犬小屋の中に入り吠えた。

 

コロは庭に水をまくホースの方へ行くことを心底嫌がっていた。ある時、無理矢理コロを庭に水をまくホースの方へ連れて行こうとすると、コロは4本の足を使って抵抗した。それでもコロの顔に皺が出来るくらいに引っ張って体がズレていくとキャンキャンと鳴いた。

 

家の風呂に何度か入れたことがある。水嫌いのせいか、風呂場に入れるとガタガタと震えていた。熱いとダメだと思いぬるめのお湯をかけていたせいか震えは最後まで止まらなかった。お湯をかけ終わったら震えは止まった。その後、水を弾き飛ばす回転を2~3回ほどした。回転した後にすぐに俺を見た。

 

空の浴槽に入れたこともあった。入れようとした時からキャンキャン鳴いていた。入れたら静かになったが、周りをグルッと見回して全面壁だとわかると、すぐに這い出そうとしてキャンキャン鳴いたのですぐに出してあげた。

 

家の中の風呂場の位置もわかっていたようで、玄関から体を持ち上げて風呂場に持っていこうとした途端にキャンキャンと鳴いた。

 

雷の酷い日に母が「コロが・・・」というので見てみると、コロが犬小屋の中に入ってキャンキャン鳴いていた。明らかに雷を怖がっているようだった。俺は雨の中、コロを玄関の中へ入れた。そしたらコロは静かになった。その時、コロはずーっと下ばかり見て落ち着かない様子だった。いつもは俺が近づけばすぐに俺を見るコロだったけど、少し様子が違っていた。雷がおさまったらコロを犬小屋に戻した。

いつの頃からだったか、コロは俺の方を見るより下を向くことの方が多くなった気がした。

 

コロの犬小屋は父が作った。大きさと形は普通の犬小屋だった。多分ベニアの板で作られていて、外側は緑色に塗られていた。中にはカーペットが引かれていた。入口には扉が付いており、出入りの時どちらにでも開くバネ式のヒンジが取り付けてあった。夕方、犬小屋が完成した後にコロを中に入れようとして入口を指さしたらコロはすぐに理解したようで、頭で扉を押して中に入っていった。

後日、扉をみたら扉の上側が削れていた。その削れた部分はどんどんと大きくなっていった。コロはこの扉があまり気にいらなかったのか遊んでいたのかわからないが、扉の上をカジっていったようだった。実際にカジっているところを見たことはなかったけど。しばらくして、あまりにも扉が削られて半分くらいになってしまったので扉を外した。

小屋は小さくもなかったけど大きくもなくて、コロは中で丸まって寝るしかなかった。もっと大きかったら体を伸ばして眠れたのにと思う。

 

コロはたまに近くに生えていた草を食べていたようだった。痩せていた感じもあったし、飯の量が少なくてお腹が減っていたのかもしれない。

 

いつの頃からか体を伸ばしてストレッチをする仕草をしていた

 

中学の頃、デジカというバギー車のラジコンが流行して俺も持っていた。俺はコロの近くにデジカを置いて傍を離れた。そしてデジカを少しだけ動かした瞬間、コロは急にデジカに向かって「ワンワン」と威嚇するように吠えた。そして、「ウー」と唸りながら姿勢を低くしたと思ったら次の瞬間に「ワンッ」と吠えながらデジカに飛びかかりひっくり返した。デジカはウィィィーンと言いながら車輪を空転させていた。コロはそれをじっと見ていた。

俺はそのままデジカを持ち去った。後日、またデジカをコロの横に置き動かしたら同じように吠えた。今度はデジカをコロの足にぶつけたらコロはキャンキャンと泣いてデジカから逃げるようになった。

 

コロの犬小屋は俺の家から少し離れた場所に建ててあり、一番近い窓からコロの様子を見ることができた。窓から顔を出した瞬間、コロはすぐに気付いてこちらに向かって吠えた。

 

コロは何度か逃げたことがあったが、一番初めに逃げた時は母が最初に気づき「コロがいない」と言ったので俺は近くに探しに行った。家に隣接する道路を横断したら、数十メートル先にコロはいた。通行人と遊んでいたようだった。俺は「コロ」と叫ぶと、コロはすぐに俺の方をじっと見た。もう一度「コロ」と叫んで大きく手を振った。するとコロは俺の方をじっと見ながら猛ダッシュしてきた。この時初めて俺は犬っ走りというものを見た。前後の足を少しズラしながら走るやつだ。コロは俺に近づく少し手前で減速して少しだけ俺を通り過ぎた。でもすぐに戻って俺の臭いを嗅ぐとシッポを振った。長い距離を走ったせいか、「ハーッ」と大きく息を吐いた。長い距離を走った後は、いつも大きい息を吐いていた。俺はそのままコロを犬小屋に戻した。戻した後のコロは大人しかった。

 

いつもは鉄の鎖をしていたが、一度だけ鎖を赤いナイロン製(だったと思う)に変えたことがあった。おそらく母が可哀想だからと変えたのだと思う。でも鎖が軽すぎたせいか、鎖を引っ掛けていた杭から簡単に外れてしまいすぐに逃げ出してしまってダメだったので鉄の鎖に戻した。

 

そのあと、また逃げたときには「犬小屋の近くでじっとしていた。」と母は言っていた。

 

コロはシッポに触るとすごく怒った。背中を撫でているときは何でもないけど、シッポの根本辺りを触ろうとすると最初は触った手を噛みそうになり、それでも触り続けるとキャンキャンと鳴いた。急所だったのかな。

 

コロは車に乗せられるのを極端に嫌がっていた。行き先は忘れたけど一度だけ一緒に車に乗ることがあったが、その時にはキャンキャンと泣いて乗ろうとしなかった。仕方なく無理やり乗せ、俺の足の間に居たのだけど、ガタガタと震えて泡まで噴きそうな感じだった。おそらくコロにとって車は住む場所が変わる時に乗る乗り物だったのでトラウマしかなかったからではないのかと思う。

 

コロは母に狂犬病の予防接種に連れられていったことがあったが、その時にはおとなしくしていたようだった。

 

たまに犬小屋の前でウンチをすることがあったが、その時はウロウロとしながら時々ウンチの臭いを嗅いでいた。

 

下痢をしたことがあったらしく、母が人用の胃腸薬を飲ませていた。

 

飯を食べた後は、舌をペロペロと左右に大きく動かした。

 

エサをやると、咥えて、俺を見て、向こうに行って食べた。

 

飯を食べている時に飯の入った容器に手を出すと、顔にシワを寄せて怒った。でも手を噛んできたりはしなかった。

 

夏の暑い日には、犬小屋の外で寝ていたこともあったようだ。俺は見たことないけど。

 

いつも体を丸めて寝ていた。

 

口で「トゥットゥットゥッ」と言ったら近づいてきた。そして顔を舐めてきた

 

俺があくびをした後に「はうぅぅ~」ということをしたら、いつの間にかあくびをする時に同じようにマネをするようになった。

 

お隣さんも犬を飼っていたが、ある日、犬の怒る顔がどういうものかという話になった。それは犬の頬を叩くと顔に皺ができ怒っているというものであり、実際にやって見せてくれた。俺はコロにもやってみた。コロの頬を平手で軽く叩くと、1回目と2回目は澄ましていたが、3回目に叩くと顔に皺を寄せて「ワン!」と吠えて俺の手を噛んだ。そんなことを2~3回したことがあった。

 

ある日、散歩に行かずに夕飯だけをやったらどうなるかを試してみた。すると、夕飯を食べながら俺が去るのを横目で見ながら少し吠えた。

 

ある時、コロの上を跨いだら、最初は俺が跨ぐのを見ていたが、俺が跨ぎ終えると一緒に付いてきた。

 

自転車で何気なくコロの前を通ったら、誤ってコロの足を踏んでしまいキャンキャンと鳴かせてしまった。その後コロは、びっこを引いて歩いた。

 

家の隣は広い空き地で鳥などがよく降りてきていた。コロは鳥が降りてくるのを見ると、身を低くしてまるで猟をするがごとく近寄って行こうとしていた。でも、すぐに鎖によって行くのを止められると恨めしそうに鎖を噛んだ。

 

いつもかどうかはわからないが、コロは首を振って常同行動をしていたことがあった。俺といる時にはなかったが、窓からこっそりと見た時にはしていたことがあった。

 

ある日、サーカスばりに長さ数十センチで高さが20cmくらいの2本の幅の狭い板の間を歩かせたことがあった。最初それをコロに見せて近付けようとすると、状況を理解したのかキャンキャンと鳴いた。それでも渡らせてみたかったので、コロを持ち上げて2本の板の上に載せた。コロはキャンキャンと鳴きながら足を震わせておぼつかない足取りで、それでも少しずつ進み始めた。でも直ぐに足を踏み外し、胴体が板の上に落ちた。でも落ちた時に鳴きはしなかった。

 

小さい頃を知っている近所の人が久しぶりにコロを見て「大きくなったわねぇ」と言ったら、コロはチラっとだけこちらを振り向いて、直ぐに俯いた。理解していたのかもしれないが、なぜ直ぐに俯いたのかは分からなかった。

 

隣の空き地は冬になると雪が降り積もり雪一面で真っ白になった。そんな雪が十数センチくらい降り積もったある日にコロを散歩に連れて行こうとした。いつもは鎖を杭から外そうとするとハーハー言いながら進もうとするのだが、その時は空き地に降り積もった雪を見ていた。歩き始めてしばらくするとコロは空き地のほうに進み始めた。いつもは手から鎖を離すことはないのだが、この時は自由にしてやろうと思い鎖を離した。するとコロは雪の中をピョンピョンと飛び跳ねながら進んでいった。しばらくすると止まって振り返り俺の方を見た。どうするのかと思ったら、そのまま戻ってきた。その後、俺が犬小屋に来るまでに付けた雪の中の足跡をピョンピョンと飛び跳ねながら進んだ。

 

冬に雪が降っていた時は、体に降ってくる雪を振るい落としながら吠えていた。

 

冬に玄関に居た時、寒さのせいか足が少し震えていたことがあった。

 

雨が上がると足に付いた雨を、伏せをしながらペロペロと舐めていた。

 

コロは自分がコロと呼ばれていることを完全に理解していた。会話の中に「コロ」という言葉が入ると、こっちを見た

 

時々、スポイドを使って薬を飲ませたりしていた。特に嫌がりはしなかった。

 

犬小屋にいる時、シッポに何かが付いたのか痒かったのかわからないけど、シッポを噛もうとしても噛めず、クルクルと回転することが時々あった。

 

コロには、いつの頃からか目の下に、涙か、目からの分泌物かで出来たクマのようなものができた。俺は一度指でそれを取ろうとしたらキャンキャンと鳴いた。俺にもクマがあったので、他の人から見たら、ペットは飼い主に似るというのを実感したかもしれない。

 

コロは毎日昼寝をしていた。ある時、昼寝をしているコロにそっと近づき突然起こしてやると、直ぐに立ち上がって鎖を目一杯伸ばしながら寝ぼけた感じで右往左往した。

 

コロが犬小屋の外で昼寝をしていた時に近づいてみてみると、呼吸が早いことに気が付いた。

 

時々、後ろ足で首をかいていた

 

ある日、空き地で父と俺とコロとで戯れていた時に、俺が何かの作業をしていて「あー」と少し大きめの声を出したら、コロは父に対して吠えた。父は「おっ」と言って驚いた。俺が父に苛められていると勘違いして吠えたのかもしれない。

 

庭にいる時に、コロがエサを十分に食べた後、しばらくしてエサを目の前に出してやると、臭いを嗅いでプイッと横を向いて食べなかった。

 

一度、お隣で警察沙汰があった時には、ずっと吠え続けていたようだ。

 

俺が手を体の後ろに持って行き、そのあと前に手を出すと直ぐに臭いをかぐ仕草をみせた。俺が持っていたものは何でも食べ物だと思っていたようだ。

 

俺は全然気が付かなかったけど、コロはだんだん体臭が強くなってきていたようだった。ある時玄関で家族全員とコロがいた時に、母が「コロの臭いが・・・」と言った。俺が「え?」と言うとコロは俺の方を見てすぐにうつむいた。コロは俺の声だけに敏感に反応していた。そして俺のほうばかりを見ていたようだ。母は「○○(俺の名前)の方ばかり見ている」と言った。父は「○○(俺の名前)が好きなんだよ」と返した。その頃はコロを散歩に連れて行く頻度が少なくなっていた気がする。

 

いつも俺をじーっと見ていたコロだったが、いつの頃からか伏し目がちになっていった。

 

あまり散歩に行かなくなったころの夜の散歩で、違う方向に行こうとしたコロを引っ張ったら、何か嬉しそうにクルクルと回転した。

 

コロの犬小屋の場所は日光の遮るものがない所だった。コロは四六時中太陽の下に晒されていた。ある時玄関で母がコロを見て「コロの顔が焼けている」と言った。俺はコロの顔を見たけれど、よくわからなかった。後から思い出すと、コロは少しずつ痩せていった細くなっていた気がする。その頃はコロを散歩に連れて行く頻度が少なくなっていた気がする。

 

高校に進学した俺は部活もやっており、コロをかまってやる時間がどんどんと少なくなっていった気がする。暗くなってから散歩することもあった。

 

どんどんと成長していった自分に対してコロはいつも通りだったので、コロを見て「コロは相変わらずだなぁ」と思ったりもしていた。

 

結局、俺はコロにはあまり信頼されていなかったと思う。虐めたりもしたし、何度もキャンキャンと鳴かせたりもした。でもコロはなんの仕返しもしてこなかったので、大したことはないんだなと勝手に思っていたんだと思う。そのうちコロも俺をそれほど信頼しなくなってきて、俺も心が少しずつ離れていった気がする。また、生涯を通してあまりかまってやらなかったこともあった。そのためかコロはコロで精神的にも少しだけ大人になってきて、自然と少し離れていった気もする。また、コロも年のせいか少しずつ元気がなくなってきた感じで俺への甘え方も少し少なくなってきた。でも俺はそれらを、嫌われて始めているのかなとしか思わなかった。

 

晩年近くのコロは、元気も少し落ちきた。最初の頃は走っても俺が追いつけないような速さで走ったけど、晩年近くはスピードも随分落ちて俺の方がコロを引っ張るようなこともあった。体も、お腹の横が少し凹んで痩せていったような気がする。この頃からコロの体に変調があったのかもしれない。

 

そして、ある日散歩に行こうとコロに近づいたけど、コロはそれまでのように体一杯に喜びを表現して鎖が伸びきるまで左右に何度も往復して駆けずり回ることがなくなっていたような気がする。また、散歩の時でも、俺から離れるような仕草もあった。これは後になって考えると、以前に田んぼの段差から無理にジャンプさせたトラウマから、田んぼの段差から離れようとしていたんだと思う。俺が玄関で前足を持ち上げて顔を見ようとするとシッポを下に下げて怯えているような仕草もあった。あとは、玄関で母がコロの夕飯を用意してそれを持って行くときも飛び跳ねていたが、それもなくなっていったような気がする。コロの体は明らかにおかしくなっていた。俺はそれを嫌われているだけだと思いコロに向かって「コロ、お前俺のことが嫌いなんだな」と声を出して言った。コロはそれを聞いてうつむいた。そんなことが2回ほどあった。

この時に何かをしてあげれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。でも当時の俺にはコロに何が起こっているのか微塵もわかりもしなかった。

 

その後、俺はコロとの散歩が全く無くなってしまった。コロの相手をしなくなってしまった。コロなんかもういいや、と。高校での忙しさに忙殺されているところもあった。頭の中は高校のことで一杯だったような気がする。コロのことを忘れてしまっている時期も確かにあった。ある夜にコロが遠吠えしているのを聞いて、やっとコロのことを思い出すこともあった。そんな時期が一か月半くらい続いたと思う。その後コロはおかしくなった。

 

「コロがおかしい」母が言った。

俺はコロに近づいたけど、コロはそれまでのように体一杯に喜びを表現して鎖が伸びきるまで左右に何度も往復して駆けずることがなくなってしまった。また、コロは俺が水のホースの方へ行こうとすると、すぐに犬小屋に隠れてしまっていたが、それもなくなった。あとは、玄関で母がコロの夕飯を用意して、それを犬小屋まで持って行くときも飛び跳ねていたが、それもなくなった。

そんなコロを見ても俺はあまり何も感じなかったような気がする。何が起こっているのか全く理解できなかったのだと思う。

 

数日後、様子がおかしくなったコロを母と一緒に病院に連れて行った。俺の記憶の最初は病院の診察室のベッドの上に横たわっているコロ。前足の肘で立って顔は上げているものの下半身は完全に横になっていた。反応は全然なく鳴きもしなければシッポも振らない。呼んでも反応がない。真っ直ぐに正面の一点を見つめている。コロの顔の前に自分の顔をもっていっても全く反応がない。でも頭をなでた時にほんの少しだけシッポが動いた。コロはベッドの上で座ったままオシッコをした。以前に母から犬は座ったままオシッコしたら最後と聞いていたのでハッと思った。お医者さんは「いいの、いいの」と言いながらリトマス試験紙のようなものを尿につけて「肝臓もいっている。・・・もいっている・・・」と言った。注射をしたが、キャンと鳴いた。

でもその時はコロが死ぬなんて思わなかった。病院に連れてきたのだから、また前みたいに元気になって帰ってくるだろうなくらいにしか思わなかった。

でもこれが生きていたコロを見た最後になった。

 

何日か後に学校から帰った俺に母が「コロが死んだ。お医者さんから連絡があった」と言った。俺は信じられなかった。すぐに母と一緒にお医者さんに向かった。コロは体より少し大きい段ボールの中に横たわっていた。中には小さい花びらの白い花が入れてあった。お医者さんは「夕べなにか鳴いていたと思って今朝になったら・・・」と。俺はコロの入った段ボールを抱えて少し離れた場所に止めてあった車まで向かった。泣くのを必死にこらえた。何か、この現実が信じられなかった。病院の横が川だったのをなぜか覚えている。死んだコロを運んでいる状況があまりにも強烈だったからなのだと思う。その後、家族全員でロウソクの火と横たわっているコロを見ている時までの記憶がない。

 

夕日が落ちた暗闇の中、コロが住んでいた犬小屋の前で母が立てたロウソクの光だけが何本か光っていた。家族全員が揃っていた。俺はしゃがみこんで泣きじゃくった。涙が腕を伝って地面に落ちた。家族全員が引き揚げた後にも俺一人で泣いていた。一旦部屋に戻った後でも悲しくなって、納屋に入れてあったコロのところに行って泣きながらコロの体をなでた。その時の感触は今でもはっきりと覚えている。

 

次の朝、母が「コロ、可哀想なことしたね」と少し鳴き声だった。俺も少しだけ泣きそうになって、そのまま学校に行った。俺は「コロはどうするの?」と聞いたら、「心配しなくていいわよ」と言ったような気がする。

 

最近になって母から「コロは市役所に連絡して引き取ってもらった」と聞いた。市役所からの委託業者がコロを引き取りに来たようだった。コロの入った箱の中に幾らかのお金をいれたそうだ。

 

コロが死んだ次の朝に父から慰めの言葉をかけられたが、反抗期だった俺は、その言葉に泣かずに反抗した。黒ブチのコロが死んだ時にも同じように父から慰めの言葉をかけられたが、その時はその言葉で泣いていたのだけど。

 

黒ブチのコロが死んだ時には、連日連夜一週間ほど勉強机で泣いていたけど、2代目のコロが死んだ後に俺は次の日には泣かなくなっていた。「もういい」と思っていたところもあった。俺はあまりにも若過ぎてコロに何が起こっていたのか少しもわかりもしていなかった。

 

コロの写真が一枚だけあった。犬小屋の前で全身を横から写して、こちらを向いているコロ。死んだ後に居間に額縁にも入れず写真のまま立てかけてあった。俺はそれを見て、「もういい」と思いゴミ箱に捨ててしまった。

今にして思えば、なんでそんなことをしてしまったのか、そのことが今、一番悔やまれてならない。

 

大学にいた時、コロにそっくりな犬に出会ったことがあった。あまりにもソックリだったので見た瞬間に「コロ!」と声を出してしまった。その犬は一度視界からいなくなったが、俺はコロの生まれ変わりが会いにきたのではないかと勝手に思い込んでしまい、その犬を探した。ソックリな犬は直ぐに見つかり、俺はその犬を撫でた。でも、その時のリアクションがコロとは違ったので、当たり前だけど「コロではない」と少しだけ悲しくなった。その後、その犬は消えるようにどこかにいなくなった。

 

 

 

 

 

コロが死んでからは犬関係の動物番組があまり見られなくなった。普通に日常の様子であれば大丈夫なのだが、生死に関係する映像が流れ始めると直ぐにチャンネルを変えてしまう。コロのことを思い出して、とても見ていられないから。

 

コロは俺の子供だったような気がしてならない。人よりも少し早く授かった子供だったのではないかと。変なことを言うつもりではない。でも、そんな気がして仕方がない。「お前には子供を育てる資格がない」と神から使わされたのではないかと。そんな俺に、コロは犠牲になってくれたのではないかと。

 

コロの肉体はこの世を去ったが、形を変えて、こうして、ひっそりとだけど生き続けている。

そして、コロの肉体は千の風になったのだと思う。

 

コロには色々と教えられた。命の尊さを。生きていれば必ずお別れの時が来るということを。人は、命は、簡単に死んではいけないのだということを。今でも教えられている。

これからもコロとは向き合って生きていくと思う。俺の中でコロは生きている。

 

ありがとう、コロ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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